Shinichiro Yamamoto

山本 慎一郎

レガシーシステムのモダン化のイメージ画像

レガシーシステムのモダン化

レガシーシステムモダン化委員会総括レポート「DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて」を読みました。
同委員会の活動は議事録などを読んでいたのですが、この度最終レポートが公表されたようです。

経済産業省
レガシーシステムモダン化委員会総括レポート「DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて」
https://www.ipa.go.jp/disc/committee/begoj90000002xuk-att/legacy-system-modernization-committee-20250528-report.pdf

『レガシーシステムのモダン化』とはどういうことか、簡単に説明しておきます。

これまで日本の企業では様々なシステムが作られてきました。
経理、資材管理、顧客管理、データウェアハウス……実に多種多様です。

ですが、近年、これらのシステムが「寿命」を迎えつつあります。
機能追加を繰り返したせいで仕様が複雑になり、保守・運用コストが増え続ける。
利用しているパッケージやライブラリがサポート終了となり、対応を余儀なくされる。
最近のシステムと連携したいのに、従来のシステム側が対応できない。
こういった理由から、従来のシステムが立ち行かなく事例が増えているのです。

このような、時代についていけなくなったシステムのことを「レガシーシステム」と呼びます。
つまり、『レガシーシステムのモダン化』とは、これらのシステムを、時代に追い付けるよう作り変えていくことを指しています。
この委員会では、その活動について調査し、対応を検討していました。

とはいえです。
レガシーシステムとはいえ、未だに現役で動いているものがほとんどです。
なぜ、置き換えを急がなければならないのでしょうか?

その一番の理由が、DXです。
先ほど述べたように、レガシーシステムは最近のシステムとうまく連携できません。
従って、DXに伴って導入されるようなシステムと情報を受け渡すことができないのです。
その結果どうなるかというと、せっかくDXを目指して導入したシステムが、宝の持ち腐れとなってしまいます。
すなわち、DXを進めるにあたって、レガシーシステムというのは極めて重い足枷なのです。

とーころがどっこい。
足枷になると分かっているのに、レガシーシステムの置き換えは遅々として進まない。
なぜか。
委員会は原因を探りました。
その結果は、資料に書いてあります。
いくつか挙がっていましたが、私が重要だと考えたのは、下記の4点です。

  • IT投資がされていない
  • 古い制度としがらみ
  • ソフトウェア産業の下請け構造
  • ベンダー(製品を作る会社)がリスクを避けている

少し説明したいと思います。

IT投資がされていないというのは、読んで字のごとくです。
同資料でも『ITシステムを投資対象ではなくコストとみなしている』『システム障害発生時に、その場凌ぎの対応に留まっている』などと指摘されています。
つまり、ITシステムが『金のかかる厄介者』として扱われているということです。

こんな考え方では、レガシーシステムの置き換えが進むはずもありません。
考えてもみてください。
先にも挙げたように、レガシーとはいえシステムは動いているのです。
今、目の前で、何の問題もなく動いているのです。
正常に動いているのに、システムを入れ替える?
そんな無駄なコストかけるわけがありませんよね。

次に問題だと思っているのが、古い制度としがらみです。
企業には定常業務というものがあります。
いつもやってる仕事ですね。
これはもうパターン化されています。
みんな、その決まりごとに従って仕事をしているわけです。
それが当たり前であり、最適解になっているのです。

では、それがある日突然変わるとしたら?
『今までの考えは捨てて、明日からはこのやり方にしてください』と言われたら?
当然、抵抗しますよね。
今までの方法でうまくいってたんだ!
なんで変えなきゃいけないんだ!
現場からの不満が爆発することは目に見えています。

ですが、現場のやり方が今までのままでは、レガシーシステムを変えることは難しいです。
レガシーシステムを変えるということは、多かれ少なかれ、現在のワークフローに影響を与えます。
いい影響もあれば、悪い影響もあるでしょう。
このような時、人間の心理として、悪い影響に対して強い抵抗感を覚えます。
変わることへの不安とでも言えば伝わるでしょうか。
これが、レガシーシステムの置き換えの障害となってしまうのです。

続いて、ソフトウェア産業の下請け構造。
現役のエンジニアとして、これも声を大にして言いたい。
そんな昭和の産業構造なんて、とっとと捨ててしまえと。

ソフトウェア産業の業界では、子請け、孫請けが当たり前です。
派遣も多いですし、SESなんていうよく分からない業務形態もあります。

確かに、地元に雇用を生むという意味で、中小企業に業務を委託するというのには一理あります。
ですが、そんな構造になっているから、企業のフットワークが重くなり、アジャイルもろくにできないまま、いつまでもレガシーシステムの更新に固執してしまうのです。
新興のベンチャー企業を見てみてください。
次々と新しいことに挑戦し、国が開催するハッカソン(課題解決の方法考えるコンテスト)でも優秀な成績を収めています。

彼らの働き方は、とても柔軟です。
思いついたアイディアをすぐさま形にして、最速の方法で検証する。
その後、実際に製品を組み立てて、顧客にいち早く「価値」を提供する。

これが、今の時代のソフトウェア産業のあるべき姿です。
発注元と製造元の間に何社も挟むから、情報伝達が遅くなり、意思決定も遅れ、全ての効率が悪くなるのです。
いつまでも、従来のやり方にすがっていては、レガシーシステムから脱却も進むはずがありません。
先に挙げたしがらみのように、同じやり方でしか作ろうとしないのですから。
そんな状況で新しいシステムを作ったところで、すぐに再レガシー化するのは火を見るより明らかです。

最後に、ベンダー(製品を作る会社)がリスクを避けているという点。
もっと具体的に言うなら、ベンダーがモダン化の案件を避けているという点です。

DXとは、基本的に変革を伴う活動です。
痛みを伴うと表現してもいいかもしれません。
例えば、2つ目の項目でも触れたように、やり方が変わることに抵抗を覚える従業員がいるかもしれません。
あるいは、そもそもの問題として、経営層が本当は納得しておらず、費用を出し惜しみするかもしれません。

これらのケースは、いずれもベンダーにとって大きなリスクになります。
開発に着手したのに、クライアントの協力が得られない。
適切な必要な費用を負担してもらえず、短期間での開発を強いられる。
こんなリスクが初めから見えているのなら、誰だって請け負いたくありません。
私だって嫌です。

じゃあ、そうならないようにクライアントを説得するかというと、それはそれで骨の折れる仕事です。
これもやりたくありません。
それに、そんな面倒な仕事を引き受けなくたって、先に挙げたように子請け孫請け構造で仕事はあるのです。
なんで大して儲からないのに負担が大きい仕事をしなくてはいけないのか。
普通に考えて、誰もやりませんよね。

これについては、私はベンダーを一方的に責めることはできないと考えています。
今の日本は自由競争の社会です。
利益率の高い仕事を選ぶのは当然の権利ですし、自然な摂理です。

それでもそういう仕事をしてほしいというのであれば、そこは国がしっかりとサポートするべきだと思います。
ベンダーにインセンティブを用意する、クライアント側に補助金を出す、DXへの期待感をもっと掻き立てる。
色々と方法はありますし、既に実施しているものもあるとは思いますが、そういったことでベンダー側のリスクを低減しないことには始まらないと思います。

ここまで、私が重要だと思った点をご紹介してきました。
もちろん、この資料には他にもたくさんの示唆があります。

同資料の第2章では、市場動向調査の分析結果と問題への対処の方向性が述べられているのですが、結論として次のような点が重要だとしています。

  • 経営層の意識変革とITガバナンスの強化
  • 情報システム部門の自律性
  • 事業部門との連携(コミュニケーション)
  • ベンダー企業の変革と協力関係

(レガシーシステムモダン化委員会総括レポート「DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて」 P.29 より引用)

分かってはいたことですが、市場動向調査でもそのような結果が出たということで、私たちの肌感に対して情報の裏打ちができたかっこうです。

あるいは、企業の取るべき対策としては、次のようなものが挙げられていました。

  • 経営層の意識改革/強力なコミットメント
  • システムの可視化、内製化
  • 標準化対応
  • 人材の確保、代替技術の開発

(レガシーシステムモダン化委員会総括レポート「DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて」 P.32 より引用)

これらもある程度予想できていたものですが、内製化まで触れた点は興味深いものでした。

最終的には、今後の政策の方向性に触れて終わりとなるのですが、全体的に見ても、なんとなく感じていたことを、ちゃんと調べてまとめてくれた印象を受けました。
全部でおよそ50ページですが、グラフや図解も多くとても分かりやすかったと思います。
これを読めば事態が解決するというものではありませんが、予備知識として頭の片隅においておくとよいと思います。

それでは、レガシー脱却の道のりは険しいと感じた、山本慎一郎でした。

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