Shinichiro Yamamoto

山本 慎一郎

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DX動向2025の説明会に参加しました

DX動向2025の説明会に参加しました。
パネルディスカッションでは、実際にお会いした方も登壇されていて、普段より親しみ深くお話を聞くことができました。

とはいえ、内容としてはDX動向2025の深掘りです。
かなり真面目なお話です。

色々とテーマがあり、様々なお話を聞けたのですが、その中からいくつかピックアップしてお話したいと思います。

ひとつめは、『日本のDXは、コスト削減に偏っている』という点についてです。
DX動向2025からの引用となりますが、アメリカやドイツといった国々と比べて、日本のDXは圧倒的にコスト削減に偏っています。

(DX動向2025からの引用の図)

DX動向2025では、これを「内向きのDX」と表現していました。
要するに、企業の内側でDXを進めていくことで、企業として競争に耐えうる体力をつけようという試みですね。
同じくDX動向2025で語られていた「外向きのDX」と比べると、事業的な効果は薄いのですが、その反面、取り組みやすいという利点もあります。

説明会では、この点について、面白い指摘がありました。
それは、『DXというテーマで質問しているが、回答者は「デジタリゼーション」や「デジタライゼーション」を含めた広い概念で回答しているのではないか』というものです。

日本のDXが諸外国から遅れていることは、今さら言うまでもないことかと思います。
一方、DXには段階があり、物事の電子化が進む「デジタリゼーション」、作業などのデジタル化が進む「デジタライゼーション」、そしてその先に、業務に変革を起こす「デジタルトランスフォーメーション」があります。
これについては、説明会に参加されていた経済産業省の方も仰っていました。

で、DXが遅れている日本においては、最終的な「デジタルトランスフォーメーション」の段階まで至らず、「デジタリゼーション」や「デジタライゼーション」の段階で止まっている組織も多いと。
ただ、ここがポイントで、組織としては「デジタルトランスフォーメーション」を行っているつもりでも、その実態は「デジタリゼーション」や「デジタライゼーション」でしかない可能性がある。
だから、アンケートを取ると、「デジタリゼーション」や「デジタライゼーション」の効果に偏っているように見える。
そう指摘されているわけです。

確かに、私たちデジタルリテラシーが高い人間は、「デジタルトランスフォーメーション」と、「デジタリゼーション」や「デジタライゼーション」の違いが分かりますが、一般的にはそうでないかもしれません。
実際、美容室の方との雑談で『DXって聞いたことあります?』などと話題を振っても、『なんとなくですかねー』程度の返事しか返ってきません。
そのような方に、先の3つの違いは分別できないでしょう。

そう考えると、『日本のDXは、コスト削減に偏っている』というのは、実は事実誤認で、『日本はそもそも、DXに至る過程をDXだと勘違いしている』ということになります。
そうなると、実態はデジタリゼーションのレベルなのに、『自分たちはDXを進めているんだ!』と錯覚してしまい、それ以上のトランスフォーメーションを生めなくなってしまいます。
この点は、説明会を聞いていて、『なるほど確かに』と思った点でした。

次に印象深かったお話は、『DXの成果の評価指標が設定されていない』という点です。
こちらもDX動向2025にて言及されていることなのですが、『DXを推進するぞ!』と意気込んでいるにもかかわらず、その目的地(目標)が具体的に設定されていないというものです。

こちらについて、説明会では『DXが企業としてのミッションになっていない』という指摘がありました。
これもDX動向2025のレポートになるのですが、生成AIに関する調査で、『個人で生成AIツールを利用している』という項目は、アメリカやドイツを上回る水準になっています。
ところが、これが『企業のプロセスに組み込まれているか』という設問になると、日本だけガクンと割合が下がります。

私が携わったプロジェクトでもそうでしたが、日本が企業で生成AIを使う場合、企業として生成AIを利用できる環境は用意するのですが、使うかどうかはご自由に、というスタンスが多い気がします。
つまり、仕事のプロセス(手順)の中には、生成AIが組み込まれていないのです。
これでは、生成AIに魅力を感じていて、自発的に使うだけのモチベーションがある人しか使わないでしょう。

こういった状況を指して、『DXが企業としてのミッションになっていない』という指摘になっていました。
これも聞きながら、『確かにそうだな』と思っていました。

みっつめ、これはもう20年近くずっと言われていることなのですが、『人材が足りない』。
DXに限った話ではないのですが、どの分野を見ても、日本は『優秀な人材が足りない』と嘆かれています。
その状況はDX動向2025でも変わっておらず、アメリカやドイツなどと比較しても、日本だけが圧倒的に人材不足に悩まされています。
ですが、他のアンケート結果と併せて見ると、『そもそも本気で人材を確保しようと思っていないのではないか?』という疑念が浮かんできます。

その理由は大きく分けて3つ。

ひとつめは、『そもそもどんな人材が必要なのか明確にできていない』という点です。
これ、考えるまでもなく、とても奇妙な構図になっています。
『どんな人材が必要か分からない』のに『人材がいない』と嘆いている。
そんなことってあります?
『こういう人材が欲しいけどどこも取り合いで~~』とかならまだ分かりますが、どんな人材が必要か分かっていないんですよ?
前提条件崩れていませんか?

それに、DXを進めるには十分な人材を確保することが重要だとこれほど説かれているのに、未だにどんな人材が必要か分かっていないって、どういうことですか。
DXする気がないんじゃないかと思っちゃいますね。

ふたつめは、『DXに予算がついていない』という点です。
当たり前ですが、優秀な人材ほどより優れた処遇を求めます。
それは人件費にも言えることで、平均的な能力の人に比べれば、2割も3割も高くなるのは当然です。
ともすれば、倍額になることさえあるでしょう。

なのに、DXをするための予算がつかない。
そりゃあ、人が集まるはずがありませんよ。
っていうか、集める気ないですよね?
社長に平社員と同じ金額で仕事してくださいって言ってるようなものですよ?
社長は責任があるんだから、その分報酬は高くなる。
当たり前ですよね?
同じように、高いスキルを持っている人を雇いたかったら、相応の報酬を支払わなきゃだめなんです。
そのためには、予算が必要なんです。
無い袖は振れないのですから、組織としてしっかり予算を組んで、人材を確保していく活動が必要なのです。

みっつめは、『学んだスキルを活かせていない』という点です。
仮に高スキルの人を雇えたとしても、その人のスキルを活かせるだけの仕事を用意していない。

説明会では、こんなケースが紹介されていました。
一昔前、日本では「データサイエンティスト」という職能がもてはやされました。
それに呼応するように、教育機関で「データサイエンティスト」を育成する学部などができました。
そして、そこで「データサイエンティスト」として、高い知識を持つ人々が育ち、卒業していきました。
では、今、その「データサイエンティスト」の人はなにをやっているのか。
データの分析?
データの活用?
いいえ、データクレンジング、つまり、データを活用するためのデータの整理の仕事をしています。

これって、宝の持ち腐れもいいところだと思うんです。
せっかく、データサイエンティストとして勉強してきたのに、やってることはデータの整理。
データクレンジングぐらい、データサイエンティストとしての教育を受けていない人にだってできますよ。
データサイエンティストを雇ったのに、データサイエンティストとしての仕事をさせていない。
そんな無駄遣いあります?

以上が、『そもそも本気で人材を確保しようと思っていないのではないか?』と思う3つの根拠です。
人材を定義していない、予算をつけていない、仕事を用意していない。
本気で人材を確保しようとしているなら、どれも満たされているであろうことばかりです。

もちろん、先に述べたように、日本のDX(と思い込んでいる活動)がコスト削減に偏っているという理由もあると思います。
『コスト削減しようとしているのに、高い人件費払って人を雇うのは本末転倒じゃないか?』
その指摘には一理あると思います。
『経営のスリム化を目指しているのに、新しい仕事を作るのは相反していないか?』
それも一理あると思います。

ですが、今日本の組織が目指さなければいけないのは「DX」です。
今まで何十年もコスト削減や経営のスリム化を目指してやってきました。
その結果が今です。
今の日本に競争力はありますか?
日本の経済は順調に回っていますか?
残念ながら、そうはならなかったと思います。

だから、成功している海外の事例に学ぶのです。
未だに世界経済のトップに君臨するアメリカ。
GDPで日本を抜いたドイツ。
そういった国が、どんな要因で成功しているか。
その一つの答えが「DX」なわけです。

説明会では他にも、『効率化の文化とイノベーションの文化は違う』、『エグゼクティブ層がリスキリングする機会がない』、『組織を横断したデータの連携ができていない』などの点も指摘されました。
いずれも、改めて説明されると頷けるものばかりでした。

私がDX動向を追い始めてまだ2年少々ですけども、ほとんど状況は変わっていないという印象です。
停滞していると言ってもいいかもしれません。

世の中では「2025年の壁」という言葉も出回っていますが、その壁に正面からぶち当たってしまった状況ではないかと思います。
このままでは、5年、10年経っても、2025年を越えられないままになってしまいかねません。

そうならないためには、やはりDXを進めていくことだと思います。
必要な人材を定義しましょう。
予算も付けましょう。
仕事も用意しましょう。
デジタリゼーションで止まるのはやめましょう。
トランスフォーメーションしていきましょう。
そういった意識、風潮が必要なのではないでしょうか?

私自身、まずは自分の仕事環境から、DXに取り組んでいきたいと思います。
この記事が公開される頃には、DX認定の申請ができているでしょうか?
日本の動向だけでなく、自分の足元にも気を使っていきたいと思います。

それでは、DX動向2025をより深く理解できた、山本慎一郎でした。

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