
DXの継承と持続可能なDX
色々な方面に広がりを見せるDX。
果たして、その成果は引き継がれるのでしょうか?
この疑問を持ったきっかけは、先日、オフィス街で耳に入ってきたちょっとした会話でした。
「Excelとか、引き継がれても使えなくて困る」
「分かるー。マクロとか全部関数にしちゃう」
関係者ではないのでどのような代物かまでは分かりませんが、どうやら引継ぎで受け取ったExcelファイルの活用に問題があるようでした。
たぶん、営業職の方だとは思うのですが、この話を聞いて、私はDX推進の陰に隠れている問題に気づかされました。
『DXで導入されたデジタル技術は、ちゃんと引き継がれていくのだろうか?』
先のExcelの会話では、引継ぎ自体は行われても、それまでの成果はあまり活用されていないようでした。
このような状況って、実は数年後の日本で問題になるんじゃないでしょうか?
DXが叫ばれ、リスキリングが推奨されて久しいですが、私のイメージでは、リスキリングは個人単位が多い気がします。
会社の部署単位で同じスキルをリスキリングしているというのは、あまり聞きません。
そうすると、リスキリングで学んだスキルは、個人によって異なることになります。
ある人はExcelのマクロを学ぶかもしれませんが、ある人はAccessの使い方かもしれません。
これ自体は別に問題ないと思うのですが、『学んだスキルが組織内で共有されない』ということであれば、問題であると思います。
例えば、AさんがExcelのマクロを学んで、集計作業の自動化を実現したとします。
その3年後、Aさんは異動になり、Bさんに引き継ぐことになりました。
Bさんは、Excelのマクロこそ学んでいませんが、Accessのスキルを持っています。
似たようなスキルだし適任だと判断されました。
では、ここでExcelの集計作業の項目をいくつか追加したくなったとしましょう。
果たして、Bさんにそれができるでしょうか?
そして、Aさんが残していったExcelファイルは、組織の中で今後も活用されていくでしょうか?
考えられる未来はいくつかあると思います。
その中で、私が、一番ありそうだなと思ったのはこちらのケースです。
『項目の追加を諦めて、現状のまま使い続ける』
項目を追加しなくても動くことは動くわけですから、これまでの集計作業はできます。
なので、追加したい項目を諦める(あるいは、別の方法で集計する)ことで、Excelファイルを『生かす』ことができます。
ですが、ちょっと考えてみてください。
項目を追加したいと思ったのは、なぜでしょうか?
その項目を仕事で使うからではないでしょうか?
その項目を諦めると、仕事に支障が出るのではないでしょうか?
仕事の質が下がったり、生産性に影響がないでしょうか?
それらは、回りまわって、組織の競争優位性にマイナスの影響を及ぼすのではないでしょうか?
もしこれらの懸念が正しければ、DXの意味をもう一度考える必要があると思います。
なぜ、費用や時間をかけてでもDXを推し進めるのか。
突き詰めていけば、それは競争優位性を確保するためです。
自らの組織が他の組織に勝つために、市場で生き残るために、DXを進めているはずなのです。
それなのに、DXの成果物を使っても競争優位性を保てない?
それはちょっと、おかしくないでしょうか?
DXの成果物は一過性のものなのでしょうか?
一時的に効果があるだけで、使い捨てのツールなのでしょうか?
そんなことはないはずです。
SDGsで持続可能性が重要視されているように、DXも組織にとって持続可能な活動であるべきです。
そのためには、DXの取り組みやリスキリングで学んだことを、組織内で共有し、継承していくことが重要だと思います。
勉強会を開いてもいいですし、1対1の伝承でもよいと思います。
何らかの形で、組織の共有知にすることが重要だと思います。
先に挙げたExcelファイルの件も、マクロが本当に関数で代替できるならそれでもよいと思います。
ですが、マクロの機能の一部を捨ててしまっているようでは、持続可能なDXであるとは思えません。
多くの組織が悩んでいるように、DXには費用も時間もかかります。
だからこそ、DXの成果を享受し続けられるよう、しっかりと技術や知見を継承していく必要があるのではないでしょうか?
とはいえ、学んだことを共有するというのは、言うほど簡単ではありません。
恐らく、ここでもまた頭を抱えることになるでしょう。
ですが、せっかく頑張って進めたDXなのですから、その効果は最大限に引き出したいはずです。
そのためには、多少をコストをかけてでも、DXの継承、持続可能なDXについて、考える必要があると思います。
それでは、DXの新たな難しさを感じた、山本慎一郎でした。